籠り


ブログでやっていた【確かに恋だった】様の「歪んだ恋10題」に挑戦したものです。
ぬるいですが一部R18なので、背後注意です。



ホテルまでショートカットしようと入った裏道で、突然腕を掴まれて振り返る。
気配を全く感じさせず背後に立っていたのは、うさんくさい笑みを浮かべた帝国宰相だった。

「駄目だなぁ、一人でウロウロしてちゃ。悪い人に攫われちゃうよ?」
「…例えばあんたみたいな?」
「そうそう」

わかってて一人でいるって事は、もしかして攫われたかったの?
適当にかけた言葉にニヤニヤと返され、ノクティスは付き合ってられないと腕を振り払おうとする。
大して力の入っていない手はすぐ外れるかと思いきや、どんなに腕を動かしても全く外れる気配がない。
思わずアーデンの顔を見ると、相変らずニヤニヤと笑っていた。
急激に意識が遠のいていく。

「な…」

がくり、と崩れ落ちる体を後ろから抱きとめられる。
最後に見たのはアーデンの昏い笑みだった。





気が付くと見知らぬ場所にいた。
最低限の調度品が置かれた薄暗い部屋に転がされている。
一瞬混乱するが、すぐ気を失う直前の事を思い出した。
現れた宰相。掴まれた腕。暗転する意識。
…自分は帝国に攫われたのだ。

「くそ…ッ」

手は後ろ手に拘束されていて動かせないが、足は自由に動かせる。
さっさと脱出して仲間と合流しなければと思ったところで、部屋の外から聞こえてくる足音に気が付いた。
コツリ、コツリ、と近付くそれは軽やかで、相手の上機嫌を伝えてくる。
やがて開かれたドアから、この事態の元凶が顔を出した。

「おはよう、ノクティス王子。ご機嫌いかが?」
「…最悪」

部屋に入ってきた帝国宰相――アーデン・イズニアを睨み付けると、愉快そうに笑われた。
…この男相手に、上手く逃げ切れるだろうか。





王家の力を封じて戦う手段を奪った。
閉じ込めている部屋には特殊な鍵を施したから、オレ以外出入りは出来ない。
毎日抱き潰しているから逃げる気力も体力もないだろうが、念を入れるに越した事はないだろう。
何の力もないただの子供に手を伸ばすと、恐怖と嫌悪が入り混じった目で拒まれた。

「…い、やだ…ッ、くんな…!」
「うるさいなぁ」

拒絶ばかりで可愛くない。
オレを拒む音しか出さないなら、こんな喉噛み千切ってしまおうか。
あぁでも、抱かれている時の可愛い悲鳴は気に入っているから、あれが聞けなくなるのは惜しい。
それに何より…

「ねぇ、強情な王子様。嘘でもいいから「好き」って言ってみてよ。オレを欲しがってみなよ」

いつか君がオレを求めるようになった時、欲しがる声が聞けないのはつまらない。
そう思い直して、喉は甘噛み程度に留めておいた。





うさんくさい笑みと共に毎日囁かれ続ける愛の言葉。
戯れに付き合う必要など無いと、聞き流していたはずなのに。
早くここから逃げなければならないのに。
その声に、言葉に、与えられる熱に、どういう訳か愛されていると錯覚しそうになる。

「…ねーわ」

ノクティスの周りには年上の男性が多い。
その中で最もノクティスに愛情を注いでくれたレギスは既に亡く、存命時も殆ど会えず、あの暖かな手を、眼差しを、温もりを恋しく思っていたのは確かだ。
父に次いで愛情を与えてくれたイグニスにも暫く会えておらず、心配や申し訳なさと同時に、寂しく感じているのも確かだ。
アーデンに絆される要素を無理矢理上げるとしたら、ここ最近欠けている“年上の男性からの愛情”くらいだが、それでもやはり、無いと思う。

「…早く、逃げないと…」

そんな筈は無い、惑わされるなと、そっと目を逸らした。





絶えず耳元から流し込まれる愛の言葉。
熱に浮かされ掠れた男の声に、背筋をぞくりとしたものが這い上がる。
慣らされた体はその声だけでイってしまいそうだった。
甘ったるい悲鳴が上がり、体が勝手に痙攣するのを止められない。
耐えるように縋り付いた背に爪を立てると、アーデンは笑ってより深く痩身を貫いた。

「あッ…!!」
「ほら、ノクト」

腹の奥を何度も突かれて、いいところばかりを抉られて、あまりの気持ちよさに目眩がする。
もう嫌だと思うのに体がいう事を聞かず、心と体がバラバラになりそうだった。
逃れようとくねらせていた腰はいつしか男の動きに合わせて甘く揺れ、舌の先まで震わせて善がる姿はとても嫌がっているようには見えない。
うわ言のように漏れていた拒絶の言葉も、快楽に蕩ける嬌声に塗り潰されていた。

「あ、あぁっ…や、あ…ぁッ」
「ねぇ、あれ言ってよ。そしたらもっとヨくしてあげる」

揺さぶられる中で強請られた言葉を正確に理解すると、理性など溶けてしまった口が教えられた通りに勝手に動く。

「アー、デン…ッ…す、き……」
「うん、オレも好きだよ、ノクト」

息も絶え絶えに喘ぐ口を塞がれて、もう何も考えられなかった。





はしたない水音が聞こえる度に、耐えるように自分の身を抱き締めた。
以前耳を塞いだのを咎められ長時間の折檻を受けてから、音を防ぐ事は諦めている。
一刻も早く終わってくれと祈りながら、震える体を丸めて耐えた。

「あれ、ノクト泣いてるの?」
「ッひ…!」

たっぷりとローションを塗り込めたそこを慣らしていたアーデンが、笑い混じりに言って中の指を折り曲げた。
ぐり、と前立腺を抉られて大粒の涙が溢れる。
自分の意思とは関係なく、後ろが強請るようにきゅうきゅうと指を締め付けて、己の浅ましさにまた涙が零れた。

「もう少し慣らしたら挿れてあげるから、泣かないで」
「ちが…、も、やめ…ッ…」

泣くほど欲しがって貰えるなんて光栄だなぁ、なんて暢気な声が聞こえて、蠢く指がもう一本増やされた。





最近は随分素直になった。
連れてきた時の反抗的な態度が嘘のように大人しく体を開く。
…もしかして、従順なフリをしたら終わると思っているのだろうか。
言う事を聞けば開放されると思っているのだろうか。
促されるままに舌を絡める美しい相貌を見て、にたりと笑う。

ダメだよノクト。

終わらせてなんかやらない。





もう何度イったのか、何度ナカに出されたのか。
アーデンが触れていない箇所がないくらい体中触れられて、舐められて、奥の奥まで暴かれて。
揺れる視界、腹の奥に注がれる熱、抱き締める腕…

(…きもちいい)

快楽に蕩けた頭では与えられる熱を受け止めるので精一杯で、粘つく水音も、上がる嬌声も、どこか遠くに聞こえる。
ただただ自分を抱くこの男が欲しくて堪らなかった。

(きもちいい、きもちいい)

ふと、もう一人の自分が「目を覚ませ」「逃げるんだ」と叫ぶ感覚に襲われるが、やはり快楽に浸かりきった頭では上手く理解できない。

(逃げる…なんで…?こんなに気持ちいいのに)
「ノークト」

耳元でした声に視線を向けると、アーデンが顔を覗き込んでいた。
ぺろり、と涙を舐めとられる。

「気持ちイイね?」

言われた言葉にこくりと頷く。
今日もまた気を失うまで愛されるのだと思うと、期待と興奮で喉が鳴った。





のしかかる重みで目を覚ますと背後からアーデンにしがみ付かれていて、驚きに二度三度瞬いた。
腕はノクティスの体をしっかりと抱き締め、顔は華奢な肩口に埋められている。
毎日朝も夜もなく求められ続け、気を失ってようやく眠り、目が覚めるとまた暴力的な快楽に翻弄される日々の中で、自分を誘拐した張本人ことアーデンがこのような行動をとるのは初めてだった。

「…ノクト」

身じろぎした事で起きたと気付いたのか、呼ばれた名前は普段からは想像できないほど弱々しい。
予想外の事に思わず固まってしまう。

「オレを受け入れてよ」

続く言葉も弱々しく、けれど腕の力は縋りつくように強い。

「オレと同じところまで落ちてきてよ」
「……」

応える代わりに手を伸ばす。
冷えた体を温めるように擦り寄ると、また腕の力が増した。





闇に包まれた世界に一人の足音が響く。
暗闇を物ともせず、闊歩するシガイには目もくれず。
荒廃したインソムニアを、青年を抱えた男が歩いていた。

「ほら、見えてきた」

懐かしいでしょ?と男が促す先には高く聳え立つ城がある。
かつて青年が暮らした場所。…今はまるで墓標のようだった。

「オレたちの城だ。これからあそこで暮らすんだよ」

死が二人を分かつまでね。そう言って笑う男の目はどろりと濁り、黒い液体が流れ出している。
俯く青年の虚ろな目からも、同じ黒い液体が溢れていた。

「…死なねーんだから、分かたれる事なんてないだろ」
「うん、そうだね。ずっと一緒だ」

呟かれた声に嬉しそうに返し、青年の額にキスを一つ。
人が絶え、死に逝く星に、2人の王が寄り添っていた。